9月5日・土曜日、横浜日産スタジアムに Mr.Children(以下:ミスチル)のライブを観に行った。これは僕にとって、人生初のライブだったと同時に、死ぬまでにやっておきたい小さな夢の一つを達成した瞬間でもあった。
夢だなんて大袈裟だと言われるかもしれない。ほんの少しの行動力と一握りの“運”があれば、そう難しくない些細なことだ。試合に勝つことの方が何百倍も難しい。だけどいつも何かしらの理由に阻まれて、「いつか…いつか…」と言っているうちに、夢として抱き始めてから実現までに6年も掛かってしまった。だから僕にとっては、ミスチルの曲が大好きなのもあるけれど、非常に思い入れのあるステージだったことをまず始めに書いておきたい。
16時開場-17時開演だというのに、14時頃には既に新横浜駅がザワめき始めていた。みんななかなか筋金入りのミスチルオタクである。かくいう僕もその時間には新横浜にいた訳だが…。
駅からスタジアムまでのレストランや居酒屋では、ミスチルのライブDVDなんかを大音量で流していて、何だか街をあげたミスチル祭のようだ。僕もそんな雰囲気にテンションを押し上げられ、音に誘われるままに一軒の居酒屋で友達と2杯ほどビールを煽ってから会場へ向かった。
僕は普段、何事にも冷静な態度で臨むことを心がけている。そして、自分で言うのもなんだけど、割とそれを実践できているつもりだ。しかしこの時ばかりは、長年夢見てきたことがもうすぐ実現する高揚感と、360度自分の好きなもの(自分と同じものを好きな人たち)で埋め尽くされている興奮と、先刻入れたお酒の力で、いつの間にかガラにもなく大はしゃぎしていた。カラダの大きな僕に合うサイズの展開はないため、(僕にとっては)小さいTシャツをコンプレッションウェアのように無理やり着て、タオルを首に巻いて、血が止まりそうになりながら(僕にとっては)小さいリストバンドを手首にはめて、頬にタトゥシールまでして、今思い出すとなかなか恥ずかしい身なりでスタジアムに乗り込んだ。
会場内全てが満員電車のような人口密度で、自分の席にたどり着くまでに30分ほどかかった。席はアリーナ・正面向かって左側の前から28列目。ステージからの距離およそ25m。柔道の試合で例えるなら、全日本選手権を一番下のアリーナ席最後列から見るくらいの距離。全部で6万9千人が観に来ていることを考えれば、間違いなく相当の当たり席だ。
17時を少し回った頃、オープニングのイントロが終わるか終わらないかのタイミングでスポットライトが一斉にステージ上を照らし、特に気取った演出はなくスタスタと主役の4人が現れる。そのまま一言も発することなく、ズバッと一曲目「未完」がスタートした。
初めてのライブで、最も痛烈に感じたことは「やっぱ歌上手いわ!」ってこと。本当に、ほぼCD通りの声を見事に出している。一曲聞いただけで、やっぱり普通の人じゃないんだと心の底から思った。ライブは一発勝負、その一度きりのパフォーマンスを成功させるための彼らの影なる努力や才能を、垣間見ることが出来るのも醍醐味なんだと改めて感じた。
テレビで見ていたボーカルの桜井さんの印象から、彼がMCで何か変なことを言っちゃったり、面白くなくて会場が静かになっちゃたりするんじゃないかと、ひそかに心配していた。ところが、なかなか上手に会場を盛り上げていて、けっこう面白かった。中盤、少し長いトークの場面では時折詰まりながらも、照れくさそうにしながらも、ちゃんと論理だった話をしていて、ちょっとした感動を覚えた。
結局、およそ3時間・アンコールも含めて全27曲の歌を披露してくれた。3時間ほとんど休みなしで思いっきり歌い続けるなんて、素人の僕らからしたら不可能に近い。それを最後まで、しっかり、上手に歌い上げた桜井さんってやっぱり半端じゃないなぁと、最後のスポットライトが消えた余韻の中、改めて思った。
一緒に観に行った友達と関内の居酒屋で食事をした後、自然な流れでカラオケに行った。当然歌うのはミスチルの曲ばかり。圧倒的な歌唱力を見せつけられたせいか、自分たちも上手に歌えるような気がしたのだが、いざ歌ってみるといつも通りの下手くそなままだ。自分で歌うと、改めて彼がどれほど難しい曲を歌っていたのかが分かって感心すると共に、非凡な才能を前に、努力するのがバカらしくなるような挫折感さえ覚えた。下手に歌手なんて目指してなくて良かった。柔道家で良かった。自分でも良く分からない理屈で落ち着き、一日を終えた。
こうして、小さな夢の一つを実現させ、僕は人間的にほんの少しだけ豊かになった(ような気がする)。こういった、楽しい脇道のお蔭で、人生全体が上手くいったりするものだ。あまり多くのエネルギーや時間は割けないけれど、とりあえず次の脇道は“スペインに行ってFCバルセロナvsレアルマドリードC.F.の試合を生で観戦すること”である。また何年かかるか分からないけれど、柔道や勉強の合間に計画を練っていきたい。